HR領域におけるチャットボット活用の是非〜国内/海外の採用事例を紹介〜

2022/12/30
  • CX

中途採用市場における人材獲得競争が厳しさを増しています。リクルートの発表によると、約8割の企業が中途採用計画に対して未達の状態であり、今後も中途採用者の数を増やしていくと回答している企業は増加していることから、構造的な人手不足が常態化している状態であるとされています。熾烈な中途採用市場の中で、企業の選考スピードはどんどん早期化しており、その速度に準ずる形で転職希望者の活動日数も短期化する傾向が強くなっています。

これらの動きを考慮した上で、企業の採用関係者は候補者の母集団形成のための施策を運用し、採用プロセスにおける候補者エクスペリエンスの向上に努め、スムーズに採用決定者が入社し、早期に戦力化させるために日々の業務を行っています。変化の早い採用市場や求職者の状況に応じた施策立案・実行が求められる採用業務ですが、前述のように日々の業務の多忙が理由となりタイムリーな施策を運用すること、考えることが難しいと感じている人も多いのが実態です。

これらの状況下で、HR領域のチャットボット活用はHRパーソンにとって多くのメリットをもたらすため、その活用方法に注目が集まっています。チャットボットは、従業員や採用候補者とHRパーソンとの1対1のやり取りをより満足度の高いものにしたり、人事が行う役割を置き換えることができるツールです。ガートナーによると、2023年までに75%の人事関連の問い合わせが、会話形AIプラットフォームを通じて始まることになるだろうと予測しており、HR関係者はこれらのツールの使用の検討したり、または導入を始めています。HR領域は、ルーティン業務や定型的なタスク処理が得意なテクノロジーの恩恵を受けやすいポジションであり、人事はそれらのツールを活用し、空いた時間で戦略的な部分を考え、実行に移すことができます。

HR領域でのチャットボット活用における海外事例

米国人材マネジメント協会が発表している”How HR Is Using Virtual Chat and Chatbots(HR領域におけるチャットボット活用方法)”の記事内で、アメリカにおけるHRのためのチャットボット活用事例が多く紹介されていたため、以下で抜粋していきます。

コンサルティング会社“Gallagher”の人事技術チームのシカゴエリアプレジデントであるEd Barry 氏
「チャットボットを用いることで、24時間いつでも、例えばオフィスアワーや募集中の求人内容に関する基本的な質問に対応できることになりました。そのため、チャットボットは非常に経済的なメリットを生み出します。分かり易い例で言うと、300人の社員が同じような質問を人事に行った場合、チャットボットが対応する場合と人が対応する場合とで、そこにかかる人件費は大きく異なります。」

 

カリフォルニア州サンノゼに本拠地を置く”Automation Anywhere”のチーフピープルエクスペリエンスオフィサー Nancy Hauge 氏
「実際にその効果を数値化しました。デジタルワーカー(またはソフトウェアボット)を実装することで、HR領域における契約関係にかかっていた時間の88%、締結完了までにかかっていた時間の80%を削減できるようになり、12,000 時間以上の労働時間を解放することに成功しています。これにより、今まで回避することのできなかった人事領域の反復的かつ管理タスクの作業時間は減り、その部分をより戦略的で創造的なことを考える時間の確保に繋げることができます。Automation Anywhere では現在、オンボーディング、記録の整合性、システムの調整、人材計画、キャリア開発のために、50の HRオートメーションボットが常に実行されている状態です。」

 

シカゴとデトロイトのオフィスを拠点とする労働雇用弁護士であるAdam Forman氏
「一部の企業は、チャットボットをオンラインで行える候補者の能力評価ツールとして活用しています。その他の企業では、チャットボットを使用して、求人を特定し、オンラインで申請書を提出し、対面式の面接をスケジュールできるような仕組みを実装している例もあります。また、その他の活用事例では、入国・就労ビザ関連、書類関係や研修関連など、新入社員のオンボーディング施策として使用していたりもします。」

 

フロリダ州ボカラトンにある DISH Network プロバイダーのオペレーターである Laura Fuentes 氏
「採用と社内の両方の目的でチャットボットを使用しており、時間の最大化と人員の節約に非常に役立っています」「採用プロセスのほぼ全体が自動化されており、応募者の選別から面接調整、リファレンスチェックなどを行っています。社内的には、研修や福利厚生の選択、給与計算サービス、時間管理システムなどのシステムが自動化されています。」

 

インドのデリーに本拠を置く Leena AI の人事責任者である Sanya Nagpal 氏
「従業員エンゲージメントのためのチャットボットは、企業内の人事担当者の役割を再現するために設計されたボットです。さまざまなオンラインチャネルを通じて従業員とコミュニケーションを取れる理想的な仮想アシスタントであり、これらのアプリケーションは、何百万もの従業員の会話を定期的に処理していくことで、時間の経過とともに大幅に改善されていきます。」

チャットボット活用の国内事例

ウェルシア薬局では、人事・労務領域でチャットボットを活用しています。約2000店舗で働く、店長、薬剤師、パート、アルバイトなど多くの従業員の人事・労務に関する疑問解決に利用されており、月間利用数は5000件超、90%以上の回答精度とのことです。結果として、人事本部に寄せられる問い合わせ件数を70%削減し1日当たり6.25時間、1カ月当たり187.5時間の対応工数の削減につながっているとされています。

ーー
ウエルシア薬局、人事・労務の社内対応にAIチャットボットを活用–問い合わせ件数を70%削減https://japan.zdnet.com/article/35196155/
ーー

出光興産は、社内の問い合わせ対応を目的としたAIチャットボットを導入しています。2021年4月から情報システム部門でトライアルを実施、さらに、同年12月には他の複数業務部門でトライアルと利用者アンケートを展開し、それらを通じて同ツールが有効であると判断したとのことです。2022年9月からはPCだけでなくスマートフォンなどでもモバイル端末からでも利用が可能となっているとのことから、さらなる利用の拡大に期待をよせているとのことです。

ーー
出光興産、社内の問い合わせ対応にAIチャットボットを導入
https://japan.zdnet.com/article/35196126/
ーー

活用検討に向けた注意事項

チャットボットはHR業務において多くのメリットをもたらしますが、HRサービスそのものを置き換えるものではなく、強化することを目的とした活用が望ましいです。また、その費用対効果は企業や組織によって異なるため、利用するか否かの判断は慎重に行うべきです。コロナ禍において、実際に人と話すことの重要性も再認識されている中で、今まで通りの対応も必要となる場面は多分にあります。

チャットボットで対応できることと、限界点を見極めながら、自社の課題解決に資するツールであるかを判断していくことが重要です。そのために、まずは採用オペレーションや社内の労務対応業務などを書き出していき、どの部分をチャットボットで運用するのか、どこからがハイタッチでカバーしないといけないかを決定し、それらの設計を行ってから試験運用から始めていくことが望ましいです。

採用業務での活用や社内活用にしろ、相手は人であるため、ツールを活用することで返って不利益になることも多々あるため、これらのリスクを考慮しつつ、エンゲージメント向上を担保できるプロセス構築を目指していきましょう。

おすすめの記事

コラム一覧
採用に関することなら
お気軽にご相談ください
サービス資料請求

社内でのご検討などのためサービス
詳細・事例などをまとめた会社案内を
PDFでご用意しています。

お問い合わせ

お見積もり依頼や詳しいご相談を
されたい場合にはお問い合わせフォーム
をご活用ください。