一度に複数の仕事をオファーする採用手法”Best Fit”を開始したアマゾン
2022/11/25Amazonは2021年7月より、ソフトウェアエンジニアからの一度の応募に対して、会社全体で募集している数千ものポジションから、最適なオファー求人を候補者へ提示する新しいプログラム”Best Fit”を開始しました。
候補者体験の向上が重要視されている昨今、Amazonの採用チームでは、自社の採用選考を希望する候補者の選考体験を改善することに力を注いでいる一方で、Webキャリアサイト上には、技術分野だけで1万を超える求人が公開されているため、候補者が自分に最適な求人を見つける過程で相当な時間と労力を費やしていることを課題視していました。
IT人材を中心とした人材獲得競争が激化する中、National Foundation for American Policyによると、2021年9月時点で、米国国内のソフトウェアエンジニアまたはプログラマー向け求人数は120 万件以上あったと発表されているほど、人材獲得は難しくなってきています。
これらの背景を念頭において開発されたのが”Best Fit”です。Best Fitは、候補者が会社の求人を見つけ、そのポジションに応募をするというプロセスとは真逆の方法を選択しました。従来は候補者がどのポジションやチームで働きたいかを考え、あてはまる求人に応募するプロセスでしたが、Best Fitは、採用チームや開発チームが候補者に対して自身の求人内容を売り込むプロセスを用いました。
Best Fitの採用プロセスについて
エンジニアの専門性や経験値においてもあらゆるパターンがある中で、リクルーターがどの候補者が自社のどのポジションに適切であるかを判断することは困難ですが、Best Fitではこれらの振り分けをアルゴリズムで行えるようにしました。
このプログラムへの応募条件は、2年間のソフトウェア開発経験と1年間のモダンな言語を用いた開発・デザイン経験を持っているという要件のみです。その上で、候補者は求人応募を行い、コーディングアセスメントを完了させます。オンラインテストと複数回の面接に合格した後に、Best Fitでは求職者にとっての理想的な勤務条件がどのようなものかを把握すべく、働く場所やワークスタイル、チームや技術スタックなどの観点に基づいた質問を行います。これにより、候補者の望む仕事内容や環境だけでなく、アルゴリズムで判断した、候補者が活躍・成功すると思われる新しい領域でのオファーも提案します。候補者は複数のオファーにおける担当マネージャーと話し、すり合わせを行っていきながら、最終的に自身の希望する1つのオファーを選択します。
Amazonの採用担当バイスプレジデントであるAlfonso Palacios氏は、「候補者に選択肢を提供しているという事実は、採用モデルをひっくり返します」と言います。候補者は、ハードなスキルだけではなく候補者の希望などを考慮してオファーすることを高く評価しています。実際に、Amazonで働くソフトウェア開発者は「複数のオファーが提供されました、私は顧客と直接仕事することを望んでいたため、いまの職種を選び、誇りを持って取り組んでいます」とコメントしています。
Best Fit はスクリーニング AI とは異なる
Amazon の上級人材向けのプログラムは独特ですが、大企業が応募者を選別する際にテクノロジと人工知能を使用するのは一般的な方法です。これらのツールは採用プロセスを合理化する可能性がありますが、コードで人種や性別の偏見を再現していると批判されることも多くあります。
ただし、Palacios氏は、Best Fit はスクリーニングAIとは異なることを強調しています。最初のコーディング試験、面接、適正確認を行った上で、ソフトウェアエンジニアに対して複数のポジションをオファーしており、これらのプロセスがリクルーターの能力を必要としないプロセスである点が、Best Fitの内容です。
候補者体験と共に再現性の高い選考プロセスの一例に
この採用プロセスにおいては、候補者体験の向上と共にリクルーターの能力に依存する属人的な採用手法から脱却することを示唆しています。企業が人材探しに奔走しているタイトな採用市場において、参考とすべき一つの採用手法であると言えます。